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近視は日本を含むアジアに多い疾患で、中でも、強度の近視に伴って生じる近視性網脈絡膜萎縮は本邦の中途失明の原因として上位に入っています。しかし残念ながら、近視が強度になり萎縮が生じる過程を本質的に予防・治療できる方法は、現在のところまだ開発されていません。欧米では強度の近視は多くないために欧米での研究は進んでいないことから、日本が主導して研究を進め、その成果を患者さんに還元していくことが重要だと考えています。京都大学では、このような状態の予防や治療法の開発につなげる事を目指して、ゲノム医学的アプローチ、画像解析アプローチ及び疫学的アプローチの3つの方法で、その病態解明に取り組んでいます。
ゲノム医学的な研究としては、ゲノムワイド関連解析や全ゲノム解析を行っています。ゲノムワイド関連解析では、発生に関わる重要な遺伝子WNT(ウイント)の1種であるWNT7B中に見られる多型が近視発症のメカニズムに関与していることを英科学誌Nature Communications誌に発表(プレスリリースはこちら:http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/150330_1.html)するなどの成果をあげており、研究にご協力いただき医学の発展にご助力いただいた方々に、この場をお借りして篤く御礼申し上げます。また、全ゲノム解析では、家族性に最強度近視又は近視性網脈絡膜萎縮が発症してしまう家系の方を対象として、研究協力のお願いをしております。まだ研究段階であり、解釈が難しいことがほとんどであるため、遺伝子解析の結果は原則としてお返しいたしませんが、本研究により家族性の最強度近視又は近視性網脈絡膜萎縮の原因遺伝子が判明した場合には、原因遺伝子次第では将来的に遺伝子治療に繋がる可能性もあることから、是非ともご協力いただけると幸いです。既にご協力いただいております方々に対しましては、現在鋭意解析中ですので、今一度御礼申し上げます。
画像解析としては、光干渉断層計(OCT)画像を用いた眼球形状解析等を行っております。OCTを用いた形状解析の試みは京都大学に限らず広く研究されているところですが、京都大学では、強膜の局所曲率半径に着目した定量的な眼底形状解析を行っています。この取り組みは、米科学誌Ophthalmologyに発表されるなど一定の評価を得ており、今後、更なる研究が望まれます。また、近年急速に研究が進展しているOCT angiographyを用いて、近視性脈絡膜新生血管の形態解析なども研究を進めており、その第1報はAmerican journal of Ophthalmology誌に発表されております。
疫学的アプローチとしては、京都大学ゲノム医学センター等との共同研究による「ながはま0次コホート事業」のデータをもとにした疫学研究や、京都大学に受診して経過観察や脈絡膜新生血管に対する治療を実施した方等の経過を追った観察研究等を行い、どのような方が近視になりやすいかや、どのような方の治療効果が高いのかなどについて検討しています。
1日でも早く全国の患者さんに研究成果を還元したいと考えておりますので、みなさまにおかれましても、ご協力をお願いできますと幸いです。(三宅 正裕)