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高比重リポタンパク(HDL)は、一般的に「善玉コレステロール」としてよく知られています。HDLはコレステロールのみでなく、リン脂質やアポリポタンパクと呼ばれるタンパク質からなる円盤状の複合体です(図1)。天然の(我々の生体内に存在する)HDLの大きさは7〜12nmであり、いわゆる「ナノテクノロジー」と言われる分野で扱う中でもより小さめのサイズの物質です。様々な基礎研究や疫学研究から、動脈硬化や炎症を抑える効果があることがわかってきています。
当研究室でも精力的に行われているゲノム医学研究の結果から、加齢黄斑変性の発症にHDLの働きに関連する遺伝子が関わっている可能性が明らかになってきました(Nat Genet. 2013;45:433-9, 439e1-2)。加齢黄斑変性は現在抗VEGF抗体の硝子体内注射が治療の第一選択となっていますが、注射という行為が侵襲的であること、また頻回注射が必要なため医師・患者双方にとって負担が大きいことが問題視されています。点眼治療が可能になればこれらの問題点は解消されますが、病変部位である黄斑部は眼表面から距離があり、点眼剤による薬物送達(ドラッグデリバリー)は困難であるのが現状です。
以上のような背景から、加齢黄斑変性に対する点眼治療にHDLは有効ではないか、具体的には治療効果を有する薬剤を疾患部位(後眼部)まで運ぶための担体(ドラッグキャリア)として利用できるのではないかと着想し、富山県立大学工学部医薬品工学科の村上達也教授との共同研究として新規治療の開発を行っています。(須田 謙史)