京都大学で開発された新規神経保護治療薬を用いた治験を実施いたしました
網膜中心動脈閉塞症は、網膜内層を還流する唯一の動脈である、網膜中心動脈が閉塞することにより、急激に無痛性の視力低下が起きる疾患です。4-6時間以上、網膜の無・低還流状態が続くと、網膜細胞は不可逆性の変化、つまり細胞死を起こすとされています。
現在、網膜中心動脈閉塞症の発症早期で再灌流の無い症例に関しては、眼球マッサージや前房穿刺・点眼などによる眼圧降下療法や、場合によって線溶系薬剤を用いた治療など、再灌流を促す処置が行われていますが、視機能改善を目指すような(視機能改善効果が明らかにされた)治療法は存在しません。
本疾患では、虚血に伴い、急性に細胞内での機能障害が起こることで急性の視力・視野障害がおこり、その後数日から1週間程度で虚血および再灌流による細胞障害のために、細胞死(網膜神経節細胞死)が惹起されることで、高度視機能障害が固定すると考えられます。
京都大学で新規に開発された、VCPという蛋白に対するATPase阻害剤(KUS121)に、細胞や動物を用いた実験で神経保護作用があることが、近年の研究で明らかになりました。KUS121を、網膜中心動脈閉塞症発症早期に投与することで、細胞保護を行い、この細胞死を抑制することで、視力・視野改善の可能性があると考えています。しかし、KUS121は本治験で初めてヒトに投与されるため、安全性および有効性はまだわかっておりません。
そこで、KUS121を患者さんに投与した際の、安全性および有効性を検討する医師主導治験を実施いたしました。本治験では、約10日間入院の上、KUS121の硝子体内投与を3回行い(初回はできる限り発症早期に)、経過観察を外来にて3か月まで行い、安全性および有効性を検証しました。
諸先生方のご協力のおかげで、予定通り治験が終了いたしました。解析の結果、KUS121の投与は安全かつ視力改善に有効であることが示唆されました。今後は、次相試験(第3相試験)に向けて、引き続き諸準備を進める予定です。
現在、治験への登録はすでに終了しておりますが、自然経過例蓄積のため、引き続き網膜中心動脈閉塞症発症急性期の患者さんのご紹介をお願いできましたら幸いです。緊急での診察が必要な場合、患者さんが緊急での診察を希望される場合を除いて、通常の時間帯でのご紹介をいただけましたら幸いです。